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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)2374号 判決 1957年12月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人坂本英雄の上告趣意について。

論旨第一点乃至第三点は単なる法令違反の主張で、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論輸出茶については、本件犯行当時輸出品取締法第七条の九によっていわゆる立入検査の職務権限が認められ、その職務権限中に輸出茶の標準、包装条件等の検査事務が包含されていたことは、原判決摘示の同法関係法条等の外同法施行規則(昭和二六年五月一〇日厚生、農林、通商産業、運輸省令第一号)輸出品検査所検査規程(昭和二六年六月五日農林省訓令第五号)昭和二七年四月農林省輸出品検査所検査細則等に照し明らかであって、所論昭和二八年九月二日厚生、農林、通商産業省告示第六号、農林省告示第七三一号は輸出品取締法第七条の二に基き政府機関の行う表示に関する新設規定であり、右告示第六号の効力発生後である昭和二九年四月以降は輸出茶の等級標準については、いわゆる業者の行う表示はなく、政府機関によってのみ表示が行われるに至ったことを意味するに止まり、所論のように本件につき前記法第七条の九の立入検査権を否定すべきものではない。してみれば、被告人の本件職務権限が右法条に準拠するものであると説示した原判断は正当といわねばならない。そして右職務権限の実施方法がいわゆる指導的方法による予備検査の方法によっていた旨判示したからといって、原判決に所論のように理由そごの違法があるいわれはない。)

次に、論旨第四点は判例違反を主張するけれども、所論掲記の判例は、収受した金員を費消した後これと同額の金員を贈賄者に返還した場合に関するもので本件に適切ではない。本件被告人が収受した金員を一部費消し他の部分を金融機関に預金した場合につき、右賄賂金員そのものはもはや没収することができないものとして追徴すべきものとした原判示は正当である。蓋し、金銭の性質上特定していることが明らかでない限り没収することができない場合に該当するものとしてその価額を追徴すべきものであること当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七七七頁参照)の趣旨とするところである。それ故所論は理由がない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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